核酸医薬とは
DNAやRNAといった遺伝情報を司る物質「核酸」を医薬品として利用するのが、「核酸医薬品」です。従来の低分子医薬品や抗体医薬品では狙えないmRNAやmiRNA等の分子を創薬ターゲットとすることが可能であり、次世代の医薬品として高い期待が寄せられています。これまで治療が困難だった疾病に対する医薬品の創出が期待されており、全世界で研究が盛んに行われています。
その一方で、核酸医薬品の開発においては、「①核酸分子の生体内での不安定性」「②副作用の懸念」「③薬物送達技術(DDS)の困難性」等の克服すべき課題があることが指摘されています。また、核酸医薬分野では、核酸干渉に関する基本特許を欧米企業が独占していることから、日本企業の開発は遅れを取っているのが現状です。
核酸医薬品の特長

次世代の創薬技術である「核酸医薬品」は、従来の医薬品と全く異なる作用機序を有しています。また、中程度の分子量で容易に製造できる、抗体医薬を凌駕する有効性と安全性の可能性を秘めているといった点も特長です。こうした特長を活かして、従来は治療困難だった遺伝性疾患、がん、その他インフルエンザやウイルス感染症などへの適用が期待されています。
核酸医薬の種類
DNAやRNAを利用する核酸医薬品には、ゲノムDNAからタンパク質が産生される段階のmRNA、miRNA等の核酸を標的とするものや、タンパク質を標的とするものがあります。

核酸医薬(予防・治療薬)の種類と特徴
核酸医薬品は、その標的や作用機序によって、種類や特徴が異なります。
種類 | 標的 | 作用部位 | 作用機作 | 概要 |
---|---|---|---|---|
siRNA | mRNA | 細胞内(細胞質) | mRNAの切断 | 配列に相同なmRNAを分断する二本鎖RNA(siRNA)又はヘアピン型一本鎖RNA(shRNA)等、RNAiの原理に基づき作用する |
miRNA | microRNA | 細胞内(細胞質) | microRNAの補充 | 二本鎖RNA又はヘアピン型一本鎖RNAのmiRNAあるいはその類似体(mimic)により、疾患で低下しているmiRNAの機能を補強する |
アンチセンス | mRNA、miRNA | 細胞内(核内・細胞質) | mRNA、miRNA の分解、スプライシングの阻害 | 標的とするmRNA、miRNA等に結合して分解・阻害する、あるいはスプライシングの際、エクソンをスキップさせる一本鎖RNA/DNA |
アプタマー | 蛋白質(細胞外蛋白質) | 細胞外 | 機能阻害 | 抗体と同じように標的蛋白質に結合する一本鎖RNA/DNA |
デコイ | 蛋白質(転写因子) | 細胞内(核内) | 転写阻害 | 疾患遺伝子等の転写因子に結合し標的遺伝子の発現を抑制する、転写因子結合部位と同一の配列を有する二本鎖DNA |
リボザイム | RNA | 細胞内(細胞質) | RNA切断 | 標的RNAに結合して切断する酵素機能を有する一本鎖RNA |
CpGオリゴ | 蛋白質(受容体) | 細胞表層 | 免疫賦活 | CpGモチーフを有するオリゴデオキシヌクレオチド(一本鎖DNA) |
その他 | - | - | - | 自然免疫の活性化を目的としたPolyI:PolyC(二本鎖RNA)、アンチジーン等上記以外の核酸医薬 |
「平成27年度特許出願技術動向調査報告書 核酸医薬(平成28年3月)」より改変
核酸医薬品のしくみ(siRNAの場合)
